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 人力舎、鬼ヶ島の和田によるブログみたいなやつ。


by deniro0817

~ぼくらの『アンナと性春』シリーズ~ 

『僕と彼女と、彼氏のリング』
 
朝目覚めると、俺の部屋のベットシーツの一部が血で汚れていた。

彼女からの贈り物の目覚まし時計を見ると8時21分。
会社へは完全に遅刻だ。
また今日も出社した時に、会社の受付嬢をしている彼女に
「あら、おはようございます『和田さん』。
 もっといい目覚まし時計でも
 『ご自分で』お買いになった方がよろしいんじゃありませんか?
 それとも出世の方は諦められたんですか??」
と、27歳で平社員の俺に彼女特有の遠回しな嫌味を言ってくるだろう。
ただ、毎回それ程嫌ではない。
受付嬢をしている時の彼女が一番可愛いし、
周りには『秘密な感じ』の会話に少しドキドキしてしまう。

俺は彼女が大好きだ。

そんな事を考えながら、二日酔いの頭を覚ます為、
ソファーに座り熱いコーヒーを飲んでいると
「和田君、お風呂勝手に拝借させてもらったよ」
と言いながら、平井部長が風呂場から出てきた。
全身鏡の前で、最近少しだけ少なくなってきた髪の水分を拭き取っている。
鏡越しに目が合う。
「平井部長が眼鏡を外してる姿、初めて見ました。」
「。。。そうだったかな?」
「はい。。。」
「そうかぁ。。。」
「。。。あっ、コーヒーどうぞ。ブラックですよね?」
「悪いね。。。」
お互い次の会話が見つからず、部屋に沈黙が訪れる。
二つの大きい喉仏を、コーヒーが通り過ぎる音だけが響き渡る。
何かこの感じ悪くないな。

コーヒーを飲み終えた平井部長が「会社を遅刻するなんて初めてだな」
と言いながら、大学時代にボクシング部で鍛えた体に、
『昨日と同じYシャツ』を羽織り、ボタンを一つ一つとめて行く。
その姿を見ていたら、「もう行っちゃうんですか??」
という言葉が俺の口からこぼれ落ちた。
ゆっくりと眼鏡をかけ、何かを黙って考える平井部長。
どんどんつらそうな顔に変わって行く。
「そうですよね〜!!俺には可愛い彼女もいるし、
 平井部長なんて可愛いお子さんまでいますもんね!!
 大体昨日は酷く悪酔いしてただけで、
 男同士なんて気持ち悪いっすもんね!!
 大体。。。
 大体、俺マジで、おじさんなんて。。。」

コーヒーと煙草の匂い。
平井部長の唇で、俺の『嘘』は未完成のまま終わらされた。

『KOされる前の選手のクリンチ』の様な激しい抱擁。
前夜の試合での真っ赤な血の付いた『リング』に倒される。
インファイターだった平井部長の攻めは、
激しく、そして力強い。
こちらもカウンターを狙い応戦。
二戦目という事もあり、お互いの弱点は熟知している。
ガードの甘い脇腹と、
弱点である『チン』を執拗に責め立てる。
客の誰一人いないホールで、
お互いの剥き出しの『拳』と『拳』が激しくぶつかり合う。
俺の『拳』で平井部長のホールのホールを満員にする。
飛び散る汗、血、汁。
「あぁ!たかし!!」
そして。。。

二人は『真っ白な灰』になった。
もう二度と再戦はないだろう。。。



俺はバス。平井部長はタクシーで会社に向かう。
バスの中、突然思いついた。
今日、受け付けで彼女にいつもの嫌味を言われた後、
プロポーズをしよう。
自分でもよく分からないけど、きっとこれでいいんだと思う。

うん、きっと。。。
by deniro0817 | 2008-02-13 13:26 | 小説