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 人力舎、鬼ヶ島の和田によるブログみたいなやつ。


by deniro0817

~ぼくらの『アンナと性春』シリーズ~ 2

『バスケットボールシューズ』 

あの日、あの夏の、あのキスは何だったんだろう。

10年振りと言われていた猛暑のせい?
サウナと化した体育館の熱気のせい?
高校2年生という若さのせい?
友情?それとも愛情?

今となっては分からない。
そして、分からなくてよかったと思う。

ただ、あの日、あの夏の、あのキスは今でも鮮明に覚えている。

バスケットボールの皮の匂い。
床にこすりつけられ、悲鳴をあげるバッシュの音。
攻撃的なまでの体育倉庫の熱気。
汗の匂い。乱れた息遣い。
そして不意に訪れた『ポカリスウェットの味』。

とりあえず俺は『夏と青春』のせいにした。


「ねぇ、貴志。式場の事なんだけど、この前のところでいい??
 今月中に予約しておいた方が少し安くなるって、担当の鈴木さんが。。。」
「あぁ、いいよ。。。。ごめん、式場に関しては任せていい??
 俺そういうの分からないから。」
「もう、私だって初めてなんだから分からないよ!しっかりしてよね。
 ”もうすぐパパになるんだから”」

そう言って真奈美はまた式場のパンフレットを見始めた。

最近とても楽しそうだ。
そしてちょっと強くなった。
『彼女』から『妻』へ、そして『ママ』になるからだろうか?
そういえば最近、前にも増して優しい顔になった。

俺はどうなんだろう?
『彼氏』から『夫』へ、そして『パパ』に。。。
正直まだピンと来ていない。
お腹の中に赤ちゃんが”いる”と”いない”の差なのかな。
それとも。。。

「あっ、そういえば貴志の高校のバスケ部から、
 同窓会のお知らせの葉書きが来てたよ。」

真奈美が重いお腹を持ち上げ葉書きを渡してくれた。

冷蔵庫からいつもの冷たい缶コーヒーを取り出し、
居間に戻りながら葉書きを見つめる。

差出人は。。。大川原篤史。

俺はそのまま居間を通り抜け、ベランダに出てタバコに火を点ける。


蝉の鳴く声が聞こえる。


居間に戻り、葉書きに書いてある『参加する』という文字を
黒ペンで丸く囲み、冷蔵庫に缶コーヒーをしまう。

「ちょっとポカリ買ってくるわ。」

「あら?珍しいね、どうしたの急にポカリなんて。。。」

真奈美の話の途中で扉が閉まる。

葉書きをポストに入れ、自動販売機でポカリを買う。


今年は10年振りの猛暑らしい。


冷たいポカリスウェットが『心』と『体』に染み渡った。。。

               
                           つづく













 
by deniro0817 | 2008-02-16 20:12 | 小説