人力舎、鬼ヶ島の和田によるブログみたいなやつ。


by deniro0817

カテゴリ:小説( 7 )

『3匹の子豚 4』

母親の使い古したバックから

銀行の通帳を取りだす。

残高は300万円。

19歳の頃から毎月

少しづつ貯金してきたものだ。

趣味も無く

友人のいなかった私にとって

唯一の趣味が貯金で

唯一の信じられるものがお金だった。


通帳の中の数字が増えていく度に

真面目に生きてる事を

褒められているような気になった。


現在から過去へと

通帳をゆっくりとめくる。

決して高くない給料の割りには

頑張って来たな

と自分でも思う。

半年前まで遡ると

豚絵の口座に100万円を振り込んでいる。

これは豚絵が友達とお店を出すのに

どうしても足りないという事で

お店が軌道に乗るまでという条件で

貸したものだ。

さらに1年前の50万円は

彼氏の家を急に追い出された豚子の

引っ越し資金として。

その半年前の100万は

豚子のダンスの学校の

入学資金として。

その他の細かいお金は

もう理由も忘れてしまった。

本人達も覚えてはいないだろう。


狼はまだ席に帰ってくる気配は無い。

妙に仲の良い老夫婦が

お会計を済ませ出て行く。

そのあとを追うように

遠くから見ただけでも

幸せだと分かる家族も

店を出て行った。

窓越しに駐車場でもはしゃいでいる

子供が見える。

広い店内で私だけになった。


3年前から使っている携帯を取り出す。

1年前から充電がすぐに切れるようになったが

特に困りはしないので

そのまま使っているものだ。

携帯を見ながら

最後に豚子と話した会話を思い出してみる。



バックからプリペイド携帯を取り出し

ボロボロの携帯から豚子の番号を探し

掛けてみる。

「もしもし~?誰~??」

少し酔った豚子の声の後ろから

カラオケの音と

はしゃいだ声が聞こえる。

無言で電話を切り

電源を切る。


決心が固まったと同時に

狼がテーブルに帰ってきた。
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by deniro0817 | 2009-02-15 22:54 | 小説
『三匹の子豚 3』

狼の話はとても端的なものだった

「豚子さんの借金300万を

肩代わりして下さい。

無理ならば豚子さんを

喰らいます。」



予約していた人数が揃ったのを確認した

タキシードを着た店員が

予約していたワインを運んでくる。

久し振りの三匹の再開と

三匹の誕生日祝いにと

三匹が生まれた年のワインを

私が予約していたものだ。


狼は無言で豚子の為のグラスに

ワインを注いでいる。

どうやら狼は

これ以上話す事はないらしい。

そして

話し合う余地も与えてくれないらしい。


沈黙したテーブルの上に

三匹の為のワインを

大きな口に注ぎ込む音だけが響く。


その音を

痺れて動かなくなった

頭の奥の方で聞きながら

ぼんやりと狼を見つめていた。


グラスに入ったワインを

飲み終えた狼が

ゆっくりと席を立ちながら

大きな口を開く

「私は本当にどちらでもいいですよ。

少し話し合ってみて下さい。

トイレにでも行ってきます。」


狼がトイレに入ったのを確認すると

豚絵は右手で首の後をかきながら

少し上目使いで話しかけてきた。


「今本当にお金やばいんだよね。

来年に2号店をオープンする予定だし

来月のオーストラリア旅行も

今さらキャンセル出来ないし。

大丈夫だよね?

大体何をしたのか分からないけど

どうせ豚子が悪いんだから

豚子が自分で責任を取るべきだよ。

もう25歳なんだし。

お姉ちゃんも早く帰った方がいいよ。

何とかなるもんなんだから。」



豚絵は嘘をつく時に

首の後を触りながら

上目使いで話す。


どれが嘘なんだろう

金がやばいというのが嘘なのか

大丈夫と思っているというのが嘘なのか

私も帰った方がいいというのが嘘なのか

それとも全部嘘なのか


豚絵に尋ねようとしたが

話し終えると財布から

自分の分だけの会計をテーブルに置き

尋ねる暇なく店から出て行ってしまった。


多分全部嘘なんだろう。

そして多分私なら

『最終的に妹を見捨てられずに払ってくれる』

と思われているんだろう。

多分豚子もそう思っているのだろう。


何だか悔しいけど

結局私には店を出ていく事も

肩代わりを断る事も出来ないと思う。


自分の生真面目さに

タメ息をつきながら

ワインを飲む。


窓の外では雨が上がり

大きな虹が出ている。


もしかすると

豚絵と豚子はどこかから

少し安心した気持ちで

この虹を見てるかもしれない。


そう思った瞬間

胸に黒いモヤが広がり始めた。

つづく
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by deniro0817 | 2009-02-07 22:52 | 小説
『三匹の子豚 2 』


昔から真面目だと言われる

それは褒め言葉としての『真面目』では無く

つまらないという意味での『真面目』だ


確かに私の人生は真面目でつまらない

物事を判断する時に

次女の豚絵は

出来るだけ楽しそうな方を選び

三女の豚子は

出来るだけ自分が得をする方を選ぶ


そして私は

出来るだけ不幸にならない方を選ぶ


だから私の人生は

二匹より不幸になる事は少ないが

豚絵より楽しい出来事もないし

豚子より得する事もない




真っ黒な細見のスーツに身を包んだ狼は

豚子の為の席に

私達の半分もないであろう小さな腰を

落ち着かせた


「あなたが豚美さんですね?」

体の割に大きな口で

そして大きな口の割に

とても小さな声で聞いてきた


「はい。こっちが豚美で、私が豚絵です。

豚子の知り合いの方ですか?」


豚絵は狼への恐怖より

狼への好奇心が勝った顔で

私より先に狼に返事をした


『一匹狼』という言葉を

容易に連想させる鋭い眼光を

豚絵に向けると

一瞬間があった後に

「そうです」

とだけ答えた


豚絵が黙る




どうやら今朝見た天気予報が外れたらしく

店の外では傘を持たない人達が

突然の大雨に打たれ

慌てて走りまわっている


『折りたたみ傘を持ってきてよかったな』

と頭の隅っこで考えながら

狼の話を聞いていた



人より幸せになろうとも

人より幸せになれるとも思ってはいない

ただ不幸な事を少しでも減らそうと

思って生きてきただけなのに


豚子に係わると

本当にろくな事がない


つづく
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by deniro0817 | 2009-01-29 23:31 | 小説
『三匹の子豚』


少しだけ昔 ある所に
三つ子で三姉妹の
三匹の子豚が生まれました


それはそれはそっくりな三匹でしたが
思春期に入った頃から
だんだんと中身が変わっていきました


長女の豚美は
自分の見た目にコンプレックスを持ち
出来るだけ目立たないように
過ごすようになり
だんだんとおとなしく
暗い性格になっていきました


次女の豚絵は
自分の見た目のコンプレックスで
笑いを取るようになり
だんだんと目立ちたがりの
明るい性格になっていきました


三女の豚子は
自分の見た目に気がつかず
見た目が変わってる子をいじめ
だんだんといじめっ子の
悪い性格になっていきました


高校までは同じ学校に行っていた
三匹でしたが
高校を卒業したあとは
三匹はバラバラの道に進みました
その頃には三匹の子豚は
三つ子だとは分からない程に
見た目も中身もバラバラになっていました


長女の豚美は
介護の専門学校に進み
資格を取り
老人ホームの介護の仕事に


次女の豚絵は
ファッションの専門学校に進み
2年間のフリーター生活を経て
雑貨屋へ就職


三女の豚子は
高3の夏休みに家出をしたまま
学校をやめ
ダンサー ショップ店員を経て
キャバクラ嬢に


見た目も中身も
そして家も仕事も生活も
バラバラになった三匹は
次第に会う事も無くなり
連絡もしなくなっていきました


そして
三匹の25回目の誕生日の前日
豚美と豚絵の携帯に
7年ぶりに豚子からのメールが来ました

「久し振り。
元気にしてた?
25歳の誕生日を一緒にお祝いしない?
ちょっと相談したい事もあるし。」


突然のメールに
少し戸惑った二匹でしたが
久し振りに三匹で会えるし
何だか心配にもなったんで
結局二匹とも行くことにしました


しかし
誕生日当日
豚子の予約した店に行くと
豚子の姿はありませんでした


どうしたんだろうと思いながら
しょうがなく豚美と豚絵で
ご飯を食べていると
突然
「豚美さんと豚絵さんですよね?」
と声を掛けられた


二匹が料理から目を離し
声のする方向を見上げると
ガリガリに痩せて
飢えた目つきをした
狼が立っていました



つづく
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by deniro0817 | 2009-01-20 19:59 | 小説
『ボクカラキミへ』

タバコの煙で目もノドも痛い。
こんな小さな部屋で吸い過ぎなんだ。
全く迷惑な大人達だ。

「どうして彼女を殺したんだ?」
その大人達が聞いてきた。

この人達に何を言っても無駄だと思ったよ。
だってそうだろ??
僕は今までこの煙たい部屋で
この迷惑な大人達に
『僕が、君をどれだけ好きだったのか』
『僕が、君をどれだけ愛してたか』を
僕の知ってる限りの言葉を使って説明したんだよ。

それなのに、その後に
「どうして彼女を殺したんだ?」だって。
全く話にならないよ。
僕に今と全く同じ話をしろって言うのかな?

こういう事にはもう慣れたけど。

君が教えてくれたんだよね
「キミハ フツウジャナイ。」

その言葉で僕は救われたんだ。
その言葉で僕は理解したんだ。
その言葉で僕は僕自身を知ったんだ。
その言葉で僕はそれまであった違和感が無くなったんだ。
その言葉で僕は君を。。。


それから色々な大人達と話をしたよ。
スーツの人。白衣の人。黒い服の人。
着てるものは違うけど、
結局みんな最後に言う事は一緒。
「キミハフツウジャナイ」

どうやら僕は『シロイタテモノ』
に入れられるらしい。
『フツウジャナイ』事を僕に理解させるために。

だから僕は大人から盗んだ鉛筆で
僕のノドを切り裂いたんだ。

だって時間の無駄だろ?
『フツウジャナイ』事は君のおかげで理解してるんだから。

そういえば最後に大人達に聞きたかったな

「ミンナハホントウニフツウナンデスカ?」
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by deniro0817 | 2008-02-24 00:03 | 小説
『バスケットボールシューズ』 

あの日、あの夏の、あのキスは何だったんだろう。

10年振りと言われていた猛暑のせい?
サウナと化した体育館の熱気のせい?
高校2年生という若さのせい?
友情?それとも愛情?

今となっては分からない。
そして、分からなくてよかったと思う。

ただ、あの日、あの夏の、あのキスは今でも鮮明に覚えている。

バスケットボールの皮の匂い。
床にこすりつけられ、悲鳴をあげるバッシュの音。
攻撃的なまでの体育倉庫の熱気。
汗の匂い。乱れた息遣い。
そして不意に訪れた『ポカリスウェットの味』。

とりあえず俺は『夏と青春』のせいにした。


「ねぇ、貴志。式場の事なんだけど、この前のところでいい??
 今月中に予約しておいた方が少し安くなるって、担当の鈴木さんが。。。」
「あぁ、いいよ。。。。ごめん、式場に関しては任せていい??
 俺そういうの分からないから。」
「もう、私だって初めてなんだから分からないよ!しっかりしてよね。
 ”もうすぐパパになるんだから”」

そう言って真奈美はまた式場のパンフレットを見始めた。

最近とても楽しそうだ。
そしてちょっと強くなった。
『彼女』から『妻』へ、そして『ママ』になるからだろうか?
そういえば最近、前にも増して優しい顔になった。

俺はどうなんだろう?
『彼氏』から『夫』へ、そして『パパ』に。。。
正直まだピンと来ていない。
お腹の中に赤ちゃんが”いる”と”いない”の差なのかな。
それとも。。。

「あっ、そういえば貴志の高校のバスケ部から、
 同窓会のお知らせの葉書きが来てたよ。」

真奈美が重いお腹を持ち上げ葉書きを渡してくれた。

冷蔵庫からいつもの冷たい缶コーヒーを取り出し、
居間に戻りながら葉書きを見つめる。

差出人は。。。大川原篤史。

俺はそのまま居間を通り抜け、ベランダに出てタバコに火を点ける。


蝉の鳴く声が聞こえる。


居間に戻り、葉書きに書いてある『参加する』という文字を
黒ペンで丸く囲み、冷蔵庫に缶コーヒーをしまう。

「ちょっとポカリ買ってくるわ。」

「あら?珍しいね、どうしたの急にポカリなんて。。。」

真奈美の話の途中で扉が閉まる。

葉書きをポストに入れ、自動販売機でポカリを買う。


今年は10年振りの猛暑らしい。


冷たいポカリスウェットが『心』と『体』に染み渡った。。。

               
                           つづく













 
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by deniro0817 | 2008-02-16 20:12 | 小説
『僕と彼女と、彼氏のリング』
 
朝目覚めると、俺の部屋のベットシーツの一部が血で汚れていた。

彼女からの贈り物の目覚まし時計を見ると8時21分。
会社へは完全に遅刻だ。
また今日も出社した時に、会社の受付嬢をしている彼女に
「あら、おはようございます『和田さん』。
 もっといい目覚まし時計でも
 『ご自分で』お買いになった方がよろしいんじゃありませんか?
 それとも出世の方は諦められたんですか??」
と、27歳で平社員の俺に彼女特有の遠回しな嫌味を言ってくるだろう。
ただ、毎回それ程嫌ではない。
受付嬢をしている時の彼女が一番可愛いし、
周りには『秘密な感じ』の会話に少しドキドキしてしまう。

俺は彼女が大好きだ。

そんな事を考えながら、二日酔いの頭を覚ます為、
ソファーに座り熱いコーヒーを飲んでいると
「和田君、お風呂勝手に拝借させてもらったよ」
と言いながら、平井部長が風呂場から出てきた。
全身鏡の前で、最近少しだけ少なくなってきた髪の水分を拭き取っている。
鏡越しに目が合う。
「平井部長が眼鏡を外してる姿、初めて見ました。」
「。。。そうだったかな?」
「はい。。。」
「そうかぁ。。。」
「。。。あっ、コーヒーどうぞ。ブラックですよね?」
「悪いね。。。」
お互い次の会話が見つからず、部屋に沈黙が訪れる。
二つの大きい喉仏を、コーヒーが通り過ぎる音だけが響き渡る。
何かこの感じ悪くないな。

コーヒーを飲み終えた平井部長が「会社を遅刻するなんて初めてだな」
と言いながら、大学時代にボクシング部で鍛えた体に、
『昨日と同じYシャツ』を羽織り、ボタンを一つ一つとめて行く。
その姿を見ていたら、「もう行っちゃうんですか??」
という言葉が俺の口からこぼれ落ちた。
ゆっくりと眼鏡をかけ、何かを黙って考える平井部長。
どんどんつらそうな顔に変わって行く。
「そうですよね〜!!俺には可愛い彼女もいるし、
 平井部長なんて可愛いお子さんまでいますもんね!!
 大体昨日は酷く悪酔いしてただけで、
 男同士なんて気持ち悪いっすもんね!!
 大体。。。
 大体、俺マジで、おじさんなんて。。。」

コーヒーと煙草の匂い。
平井部長の唇で、俺の『嘘』は未完成のまま終わらされた。

『KOされる前の選手のクリンチ』の様な激しい抱擁。
前夜の試合での真っ赤な血の付いた『リング』に倒される。
インファイターだった平井部長の攻めは、
激しく、そして力強い。
こちらもカウンターを狙い応戦。
二戦目という事もあり、お互いの弱点は熟知している。
ガードの甘い脇腹と、
弱点である『チン』を執拗に責め立てる。
客の誰一人いないホールで、
お互いの剥き出しの『拳』と『拳』が激しくぶつかり合う。
俺の『拳』で平井部長のホールのホールを満員にする。
飛び散る汗、血、汁。
「あぁ!たかし!!」
そして。。。

二人は『真っ白な灰』になった。
もう二度と再戦はないだろう。。。



俺はバス。平井部長はタクシーで会社に向かう。
バスの中、突然思いついた。
今日、受け付けで彼女にいつもの嫌味を言われた後、
プロポーズをしよう。
自分でもよく分からないけど、きっとこれでいいんだと思う。

うん、きっと。。。
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by deniro0817 | 2008-02-13 13:26 | 小説